第7話 翳りゆく部屋

執筆者 : 吉良朗

― 静かな隣人 ―

 部屋を襲撃された際に、部屋の中の物はことごとく破壊されていた。

 ほとんどが使い物にならなくなっていて、それらはひかりの両親が片付けてくれたのだが、大半は捨てられていった。

 なかには、ほとんど使ってなかった調理器具を含め、一部のラックなどまだ使える物も無いわけではなかった。

 しかしそれらも、その段になってやっと初めてこの部屋を訪れた和雄の父親に処分された。

 和雄の父親は、しけたもんしかねーな、とかなんとかぶつぶつ言いながら部屋の隅にそれらを集めたかと思うと、外で待たせていた老年の男を部屋に呼びつけてその場で査定させた。

 そして半ば強引に現金に換えさせたかと思うと、それを受け取って早々に帰って行った。

 その間、ひかりとひかりの両親は呆気にとられていたが、和雄の父親が帰ると、ひかりの父親がぼそりと、最低な父親だ、とこぼした。

 すると、こみあげた怒りが溢れ出したようにひかりの母親が、あんな男死ねばいいのに、と声を荒げた。

 これにはいくらなんでもと、ひかりは和雄に小さな声で、ごめんね、と言ったが、おまえの母ちゃん間違ってねーよ、と和雄は言って、だいぶ自由に動かせるようになった手でひかりの後ろ髪を撫でた。

 以前ならあんな父親を怒りに任せて殴ってもおかしくなかった和雄だが、もう腹も立たなくなっていた。

 それどころか逆に可笑しくて、しばらくの間、和雄はちょっとした拍子にこの時のことを思い出して笑ってしまうようになった。

 それも突然ゲラゲラと大笑いするので、一時はひかりが心配したほどだった。

 部屋が片付くと、それから1カ月ほどして隣のおばさんは引っ越して行った。

 この頃になると、和雄もひかりも自由がままならなかった体をだいぶ思うように動かせるようになっていた。

 これで平穏が戻った。

 そう思っていた矢先だ。

 今度はおばさんと入れ替わりに入居した隣人の、ゲーム実況の騒音問題が始まった。

 それからこの三か月、和雄とひかりは騒音に悩まされてきた。

 このマンションは全室事務所使用が可能になっていて駅からも近いせいか、ほとんどが事務所借しされていた。

 なので夜になると住人がほとんどいない。

 各フロアに4部屋あるが、和雄たちのフロアは隣のゲーム実況者が端の角部屋で、並んで和雄たちの部屋、そこからエレベーターを挟んだ逆隣りは事務所に貸されていて、更にその向こう側の角部屋は最近空き部屋になった。

 実況野郎のやつ、あっちの角部屋に引っ越さねーかな……

 今では和雄たちの部屋には文字通り何もなく、やることもないので二人は夜の騒音にそなえて昼間に休息するようになっていた。

 和雄は元々だが、今ではひかりもすっかり夜行性になった。

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