― 浮かんだノイズ ―
気がつくと、俺は背中にひんやりとしたものを感じた。
ハッと目を開くと、ぼんやりと黒い頭がこちらを覗き込んでいて、思わず、ひっ! と声をあげて逃げようとしたが、そこでどうやら俺は床に寝ていることに気づいた。
カウンター内の床は狭くて逃げようがなく俺は再びパニックを起こし、それでもどうにか逃げようともがいた。
「大丈夫ですから! 大丈夫!」
その声色の記憶が俺の体の動きを止めた。
恐る恐るもう一度俺を覗き込んでいる顔を確認した。
そこには、名前がすぐに出てこない、あのちょっとかわった名の女がいた。
俺はハッとして勢いよく起き上がった。
「どうなった!? 美樹……や、あれは?」
女は黙って俺をじっと見下ろしていた。
その目には軽蔑のような色が見てとれた。
「何だよ」
「美樹さんていうんですね?」
女はそう言って少し考えるような表情をしてから続けた。
「彼女、消えてはくれました……いちおう」
歯切れの悪い物言いだった。そして何か思案するように顔をしかめた。
俺は、固唾を飲んだ。
「消えたっていうのは……その……成仏したって事だろ? じゃあ、もう大丈夫ってことだよな」
「一応、そういうことになるとは思うんですが……」
「一応って……え、なんなんだ? はっきりしてくれよ」
俺が強い口調で言うと、女は不満げな表情をした。
「分からないんですよ。ほとんど……あー、全くっていうくらいコミュニケーションがとれなかった……」
「え?」
「あー、すみません、まだ経験不足で……」
女は少し悔しそうな表情をした。
ふと、根本的な疑問が浮かんだ。
「あのさ……君はいったい何者なんだ?」
「あー……」
女はそう言うと、慌ててバッグからカードケースを出し、中から名刺を一枚抜くと、おぼつかない手つきで差し出してきた。
俺は黙って受け取った。
『ゴールドメディアム』と名刺の肩書にはそう書かれていた。その下に『神和住月』の名前。そして、上の方には『日本霊媒師会』とあり、その横にアルファベットの『JMA』の文字をデザインしたロゴがあった。
下の方には、URLもあった。
ゴールドメディアムというのが階級みたいなものだということはなんとなく分かったが、それがどの程度のものなのかは検討つかない。ゴールドというからそれなりなのだと思うのだが。
「とりあえず、今できることはやりました」
女は言って、俺の手元の名刺を見た。
「何かあったら、ホームページのフォームから私宛てに連絡をください。裏にQRコードもあります」
名刺を裏返すと中央に大きくJMAのロゴ、右下にQRコードがあった。
そして、ロゴの下には少し小さく、『Japan Medium Association』とあった。
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