第4話 四面楚歌

執筆者 : 吉良朗

― 静かな隣人 ―

 毎日昼夜問わず突発的に泣き出すシュンは、その日の夕方も泣きわめいていた。

  そんなシュンを放置したまま、ひかりはヘッドホンで音楽を聞きながら、寝そべった姿勢で、怪我した野良猫が保護されるYoutube動画をスマホで見ていた。

 いっぽう和雄のスマホには、連日昼夜問わずの非通知着信の通知で画面が埋め尽くされ、和雄たちのグループが連絡用に使っているLINEグループにも捕まった二人の名前で通話通知が飛んでくる。

 当然、誰も応答しないのだが、それがしばらく続くと今度は和雄を名指しで、おまえんち分かってるぞ、とか、もうすぐ迎えにいくからな、などのメッセージが送られてくる。

 こんなことの繰り返しだった。

 前日からは、マンションの前にガラの悪い連中や東南アジア系と思われる外国人がうろつくようになっていた。

 和雄はマンションの前の道路が見える風呂場の小窓から、連中のようすを度々うかがっていたのだが、最初はきょろきょろと部屋を探すようにマンションを眺めていた連中が、いつのまにかこちらの部屋の方をまっすぐにあおぎ見るようになっていた。

 それからしばらくして、LINEグループにはこんなメッセージが送られてきた。

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 カズオくんの部屋の位置を教えてくれたお友だち

 サンキュー、マジ感謝!

 あと提案がありま~す。

 カズオくんを仕留めるお手伝いをしてくれたヤツには何もしませ~ん

 逆に朗報! 感謝状(お金)出しちゃう・・・かもよ♡

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 おそらく、メンバーたち個人のアカウント情報も、捕まえた二人から得たのだろう。

 そして、和雄のメンバーの誰かに直接連絡して、マンションの外から見た和雄の部屋の位置を聞いたのだ。

 そのうえで、わざわざグループラインにこんなメッセージを送ってきた。

 そもそも、部屋番号くらい捕まえた二人から聞いて知っているはずで、オートロックがあるとはいえ、連中のような奴らなら入って来る手段などいくらでもあるはずだ。

 完全に連中は俺を追い詰める遊びを楽しんでやがる――

 さきほどのメッセージが送られて来た直後、メンバーのひとりから和雄の個人アカウントに次のようなメッセージが届いた。

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 和雄さん俺マジブチ切れました。

 あいつらやる相談したいんで会わねーっすか

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 その後、連続して同じような内容のメッセージが何人かのメンバーから送られて来たが、和雄は全て無視した。

 あいつら……

 連中のあんなメッセージが来た後にこんなん送ってきやがって――

 この状況で、はいそうですか会いましょう、ってなるわけねーだろ――

 和雄は外出を控えるようにひかりにも忠告した。

 食料もインスタント食品のストックがまだあったが、念のためシュンのミルクとインスタントの離乳食もあわせてネットで買い足し、配達はマンションのエントランスにある宅配ロッカーを指定した。

 今まで他人を腕力で従わせ、ひかり以外誰にも反抗を許さなかった和雄にとって、この状況はかなりのストレスだった。

 シュンはしばらく泣き続けると、疲れるのか少しの間だけ静かになるが、すぐにまた泣きわめく。

 その繰り返しだった。

 ひかりは夕食の用意もせずに、スマホで子猫が『ちゅーる』にむさぼりつく動画を観ていた。

 どいつもこいつも……

 わかったよシュン、今メシ用意してやっから泣くなっつーの……

 和雄は面倒くさいと思いながらも、カップ麺をふたつとインスタントの離乳食を棚から取り出し全て開封した。

 くそっ。

 そうつぶやくと、離乳食に電気ポットのお湯を注ごうと伸ばしかけた手をふと止めた。

 突然、和雄はその衝動にかられた。

 和雄は伸ばしかけた手を引き戻すと、よろよろとベビーベッドの方へ歩いて行き、わが子を見下ろした。

 シュンはさんざん放置され、それでも自分の存在証明をするように両手を握りしめて力の限りに泣いていた。

 うるせーなぁ……

 なんでこんなうるせーんだ……

 っつーか、おまえなんでそんなに泣くんだよ……

 自分が悪ぃーんじゃねーか……

 おまえが弱えーからだぞ……

 和雄は朦朧もうろうとした眼差しでわが子をしばらく見つめた。

 そして、右手をその首へと伸ばした。

 なんで弱えー奴がいる……

 強えー奴のためか……

 狩る者のための狩られる者……

 なら、俺は――

 和雄はどこかで見た、自分の子を貪るように食う神の絵を思い出した。

 和雄はシュンの首にかけかけた右手を顔の方へずらすと、その顔面を覆うようにして頭部を掴んだ。

 右手で充分だ――

 その時だった。

 背後でバタバタと物音がしたかと思うと、きゃっ、というひかりの短い悲鳴が聞こえた。

 和雄は振り返ろうとしたが、もうその瞬間には頭部に走る重い衝撃とともに視界は真っ白にとんでいた。

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